やっと息が吸えた


海外が好きだ。
10代〜30代の頃はヨーロッパが好きで、一時はパリに暮らした。
15区のアパルトマン。
路地を曲がった行き止まりにある可愛い建物だった。

40代になって中東に暮らすとは思っていなかったけれど、確かにパリはもう違う。
サクレクールもサン=ジェルマンデプレも、エクスもエズも、もうすっかり過去にある。


パリ東駅から列車に乗ってストラスブールへ。
目的地はコルマールだった。
ハウルの動く城が好きで、その舞台になった街に立ちたかった。
ヨーロッパの国境近くの街は、文化が混ざっていて面白い。
コルマールはフランスだけれど、街の雰囲気はドイツだ。

ヨーロッパに行くと、あちこちにカルーセルがある。
子どもにせがまれて、何度も乗る。
あんまり何度も乗るから、おじさんがチケットを安くしてくれた。

去年の夏、ジュネーブでカルーセルを見かけた。
乗る?と聞いたら、勘弁してと断られた。

思い出があちこちにある。
今、ヨーロッパはわたしにとって過去にある。
フィルムを観るような、そんな場所。ノスタルジー。



海外が好きな理由に気がついたのは、30歳を過ぎてからだった。
パリの花屋で働いていたとき、休憩で近所の公園に行った。
公園のベンチに座って、握ってきたおにぎりを食べる。
薄青の空、歴史ある建物、なんの変哲もない公園、フランス人、アフリカ人、アジア人、わたし。
それぞれがそれぞれにそこにある。
空もベンチも人も、わたしを見ていない。

33年生きてきて、やっと息が吸えた気がした。



ドバイは人口の9割以上が外国人の国だ。
こんなに "Where are you from?"と聞き合う国はないのではないかと思う。
違うのが当たり前で、違ってもいちいち関心を寄せない。
でも、素敵だと思ったら情熱的に褒め合う。

今、中東で美容ゼリーを展開しているが、わたしが経営者だと言うと驚かれる。
そして驚いたあと多くの人が「おめでとう!」と言う。

おめでとう。
成功しておめでとう。

いいなと思った。
成功しておめでとう。
わたしも言いたい。

深呼吸をしなくてもいい国に暮らせて嬉しい。




須王フローラ